2020年3月1日日曜日

手洗いについての雑感集

(手洗い1)外科医のイロハは手洗いからだった
 僕は自分のことについては衛生に関して神経質ではありません。しかし、手術前の手洗いは本当に一所懸命するのです。自分の手で帽子とマスクを着用してから手洗い場所に行くのです。そこには滅菌した手洗い用の温湯シャワー装置とイソジン消毒薬液があります。それを用いて数分~5分以上かけて手から前腕にかけてブラシで擦っていくのです。ブラシは指先から肘の方へ次第に移動していくのが作法です。この作業を繰り返し行い、自分が納得すれば滅菌乾ガーゼで拭き取るのですが、この場合も指先から肘の方向に拭き取るのです。
 手洗いが終わると、手術場のナースの助けをもらって、滅菌した術衣を着用します。執刀を始める時よりも、手洗いから滅菌術衣を着用するまでの一連の動作が一番緊張する時間でした。

 (手洗い2)水での手洗いがイロハのイだろう
 砂漠で生活している人々が食器や手を洗おうとすれば、砂をつまんでゴシゴシするのでしょう。僕も自然の中に出掛けた時には、海岸の砂や原野の砂で洗った経験があります。それでも日常の生活の多くは不都合なくやっていけます。一般的には砂よりも水の方が手洗いに適切なのでしょう。しかし、脂物が手指に付着して洗剤がなければ先に砂で擦り取ってから最後に水洗というのがよいのかもしれません。
 今述べた手洗い法は物理的に汚れを取り去る方法ですが、充分に水洗するだけで細菌やウイルスも一億個が百個に減る(たとえばの話)ことになり、充分有効だろうと思われます。病原菌は必ずしもゼロにする必要はないのです。十分減ればよいのです。しかし、何匹までが大丈夫なのかは誰も直ぐに答えることが出来ないので、ゼロを目指してということになるのでしょう。
 手洗い用の洗剤などを用いると、油脂に絡まった汚れや病原菌をさらに除去してくれます。また、感染対策における手指の消毒の場にはアルコールやその類似物質が用意してあることが普通のようになっています。アルコールで指に付着した病原体の殺菌をするのですが、先に水洗いをしをしておく方が望ましいと思います。僕はアルコール消毒の効果については詳しくありませんが、ただ、アルコールは最適な消毒効果のために、純アルコールを蒸留水で希釈して70%にしたものを用いるのが普通だと思います。

 (手洗い3)手洗いが非常に重要なのは消化管感染症だろう
 僕にはよく判らないのですが、インフルエンザのような気道~呼吸器感染症の部類の疾患における、手指を通じての発病は実際どの程度なのかなと思うのです。だから手洗いを適当にというのではないのですが、やはりマスク着用が一番だと思うわけです。
 ところが、ブドウ球菌感染による食中毒の防止のためには調理人が厳重な手指の消毒をしておかないといけないのです。調理の時に付着ていた菌がその後増殖してしまうからです。調理人の手指に怪我があったりするとよくありません。その場合は休職してもらうことがあります。
 また、最近知られるようになったノロウイルス感染症は極めて感染性が強くて、しばしば激しい下痢を伴う腸炎を起こして施設内集団発症をきたすのです。この疾患は病院や施設にとって要注意の感染症です。下痢や嘔吐の汚物が付着した衣服や敷物から職員の手指を介しての感染が非常に起こりやすいのです。このウイルス感染に対する診断キットはインフルエンザ感染に対する簡易診断キットと似たようなものが商品化されていて、広く利用されるようになっています。これらは、最近の新型コロナウイルス感染症において有名になったPCR法とは違って、免疫酵素抗体法を用いており、15分もあれば現場で結果が出ます。

 話のついでに書いておきますが、これらの検査キットを作る会社にとっては、器具はほぼすべてお互いに同じものを利用できるのでして、肝腎の試薬だけが違う抗体を用いるのです。
 参考のために治療キットの具体例を書いておきます。随分以前からノバルティスという製薬会社が喘息治療薬のフルタイドというパウダー薬の吸入キットを流通させていますが、僕はこの薬剤を喘息治療の基本に利用してきました。その後、この会社からインフルエンザ治療薬として、リレンザというパウダー薬の吸入キットが発売されることになりました(2000年発売)。タミフル内服薬(2001年発売)の次によく使われてきたように思います。このリレンザの吸入キットはフルタイドの吸入キットと見た目は全く同じなのです。キットの器具の模様と色が違うだけです。
 以上の治療薬の吸入キットでの話が、そのままウイルスの検査キットでの話になると思います。


 だから、新しいウイルスに対する抗体が新たに作成されて安定利用出来る態勢になっていたら、検査キットの製造はかなり簡単だろうと思うのです。つまり、新型コロナウイルスの検査キットは、政府が製造会社に「今、緊急事態だから、早いこと作ってくれ、この件で無理を言うからもうけさせてやるよ」と言えば、早々に可能になると僕は思うのです。しかし、日本では、その会社に便宜を図った経緯は如何にとか、その費用はどういう経緯で決めたのかとかいって、マスコミや野党が騒ぐから、臨機応変が難しいのだと僕は思います。こういう場合は、政府の独断専行で良いと僕は思います。今のような潜在的に多額の経済ロスを導くような国難の事態において、この検査キットの開発を超短期間で製造にもってくることに出費する何億・何十億円の国の金などをゴチャゴチャ言わなければよいのに、必ずゴチャゴチャいう「野党」と「マスコミ」に同調する「世間」が問題だと僕は思うのです。
 (注)もともと、僕は、今回の新型風邪に対しては「国民は普通の生活でよろしい」「日本ではせいぜいインフルエンザ程度のものだろう」「主な感染は部屋の中で生じるのでそれに気を付けよう」の対応で宜しいと思うと言っているのでした。ところが、ここの部分の記事を読み返してみると、如何にも「新型コロナウイルス感染の検査をどんどんした方がよい」ことが前提のように受け取られると思われましたので、そういうことを主張しているのではないことを書いておかないといけないと思いました。それで、次の号に書くことにしました(2020.03.08)。

 (手洗い4)手洗いは1分間でも長く感じる
 以前、診療所を経営していた時に、厨房に関わる診療報酬における加点算定を得るために施設改造をしました。この時の査察に保健所の職員が来られてチェックをされました。その時に「手洗い所の前にこの注意書きを貼っておいてください」と紙を渡されました。「手洗いは1分しましょう」だったか「数分しましょう」だったかは忘れましたが、そういう内容でした。僕は「はい」と言って預かりました。それを貼って目標ないし努力目標にしておくことになったのですが、僕は内心「それは長いなあ」と思いましたが、口には出しませんでした。普通なら、これで終わりの話です。
 ところが、その職員は事務長をしていた僕の妻の昔の知り合いだったのです。その人はそうした気安さのためだろうと思うのですが、僕の「それは長いなあ」という気持ちを察したのか、「1分でも、実際、長いですよねえ」と言ってくれたのです。保健所や厚労省で提示する指示内容は現実からかけ離れた「優等生的なこと」であることが少なくないと思うのです。それと、こういう職員に知り合いがいると有難いなあと思ったということです。





 

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