2020年3月1日日曜日

「うがい」についての雑感集

 この号を含む前後の3つの号はブログ「ヘルスコラムM」の続きでもあり、ブログ「日出づる国考M」の最近のテーマ(新型ウイルス疾患)と共通性が多いのですが、「ものの考え方の実践例」として、この「意味論コラムM」のところに書くことにしました。「ヘルスコラムM」では文章が「です」「ます」を通しましたので、ここではそれを踏襲しておきます。 

(うがい1)感染防止の意義としての「うがい」は疑問だ
 僕は、「ヘルスコラムM」(#24.2003,4)において、マスクは意味がある場合が多いが、「うがい」は怪しいと思うと表明しました。もう17年前のことですが、考えは今も変っていません。
 結論を先に言いますと、日中に10回も20回もうがいをするというなら、その意味はそれなりにあると思いますが、「帰宅したらうがいしましょうね」という感覚なら無意味だと思います。理由は簡単で、「対応が時間的に遅すぎる」ということです。こういうアドバイスには「本気度」があるようには思えません。教科書的というか他人の言ったことをオウム返しに述べているという気がします。「何だか良さそうな雰囲気の発言なので自分も言っておこう」という感じに僕には思われます。これでお仕舞いです。
 簡単に判る話なのにどうしてそんなアドバイスをするのだろうと不思議に思います。医療専門家として意見を発するのなら、自分の頭の中で実際のシミュレーションをして本気度の高い意見を発して欲しいと思います。
 しかも、問題は時間的なことだけではありません。部位的な問題点もあります。「うがい」によって粘膜を水分で洗う範囲を「本気」で想像してください。口腔粘膜の辺りまでしかできないのです。深い咽頭や、喉頭・気管より先の方は「うがい」ができません。しかも、「うがい」だけでは広範な鼻腔粘膜も全く手つかずです。これで仕舞いです。
 「うがい」よりは「マスク」の方が一般的には意味が大きいと思う根拠です。
 
 (うがい2)「うがい」指示への疑問は他にもあった
 喘息治療は大凡でいえば、20年以上前に既に目途が立っていました。(注)「ヘルスコラムM」(#10. 2002.7)(#90.2016.7 
 「基本的には、副腎皮質ステロイド(副ス)の吸入薬の毎日(通常)の使用によりコントロール可能になりました。もちろん、良くなり過ぎたらこういう治療もいったん中止ということもしばしばです。再燃したらまた再開をすればよいのです。「副ス」吸入だけでは管理できないような難治の場合には、一定期間の「副ス」内服投与を第一選択とすることが正しいのですが、実際は「副ス」の吸入薬による管理で多くの症例の管理が可能となります。
 「副ス」の長期使用では種々の副作用が出現する可能性があるといわれています。比較的多量での長期の内服の場合にこれがよく問題になりうるのですが、局所投与の吸入治療でもこの副作用が多少ともありうるという話です。

 このうちで、吸入流が当たる粘膜においては真菌(カビ)に対する防御反応が低下するために粘膜に真菌症が生じる可能性があると言われています。僕の扱った症例にも現実にこれが生じた場合を1例経験しています。他は気付かなかったのかもしれません。これが生じた場合は、「副ス」吸入薬の減量や休薬を考えたりしますが、原疾患の管理が問題になる場合はこれがかなわずに抗真菌薬の服用をします。
 自分ではしませんでしたが、予防投与する場合もあるのかもしれません。

 以上ですが、一般的には、「副ス」吸入薬による粘膜真菌症を防止するためにも、吸入をしたら直ぐに「うがい」をしましょうという指導をします。これには製薬会社から始まり主治医からも薬剤師からもこの点を重点的に指導することになっているのが現状であります。
 しかし、結局、「うがい」は咽頭の一部までしかできないので、咽頭下部や喉頭・気管・気管支は手つかずなのです。「本気度」の話をしますと、「うがい」が咽頭粘膜における副作用防止に実際に有効であって意味があったという症例の場合を思考実験すると、喉頭・気管・気管支のいずれかには粘膜の真菌症が発症しているという確率は大変高いはずです。「うがい」により手前の咽頭の真菌症が防止できたので、喉頭以遠の病変は生じても発見は困難であります。
 かえって「うがい」をしない場合の方では、手前の咽頭粘膜の病変が先ず発見された際に診断が可能になるということになります。
 以上のことから、真菌症の副作用についての認識は持っておきながら、むしろ「うがい」をしないという選択もありと思われます。

 もう一つ、長期吸入「副ス」療法の場合に、多少とも気道粘膜から血液に吸収された「副ス」の全身への影響を考えるのです。これについては内服の場合による多くの副作用の可能性と同じことになります。前述したように、「うがい」によってもほんの一部の部分しか対応できないので、製薬会社はこの吸収に関する資料を持っているでしょうが、現実的には言うほどの「うがい」の効果はないと僕は判断しています。
 そして、もともとこの「副ス」吸入療法が大変すばらしいのは、内服などの全身投与と異なり、粘膜からの体内への吸収の影響が極めて僅かであるということに拠っているのです。
 僕は、2年前から自分も喘息(咳喘息)が発症して、1年中の数か月以上は「副ス」の吸入を利用しています。自分の吸入体験によりますと、上手に吸入が出来た場合は、吸入の薬剤は気管以遠に充分量が到達するので咽頭粘膜に引っかかる割合は非常に少なくなります。吸入が非常に下手な場合(私は初めから上手ですが)にこそ咽頭粘膜に留まってしまうことが実感のように理解できるのです。僕自身は、吸入後に「うがい」をしたことがありません。しかし、保険医として、患者さんには「うがい」をするように指導をしています。
 ところで、院外処方箋の場合は(大きい病院で処方箋を書く場合も同じ)、どのみち薬局の窓口で薬剤師が処方医の僕と力点の異なる吸入指導をすることは判っています。僕自身は、薬剤師やナースとチームを組んで、意見調整をする場があればよいと思っていますが、忙しいこともあり難しいのです。

ことのついでに書いておきますが、「うがい」指導を医師や薬剤師が一所懸命にし過ぎる弊害が別にあります。こちらの方が大問題です。この吸入薬は当たり前のことですが、「吸入の仕方が下手」だと喘息が上手く管理できないのです。だから、僕は、患者さんに吸入の仕方を自分で実演をして、かつ、患者さんに目の前で「本気で吸入してください」とチェックすることにしているのです(そのうちにナースにこれを仕込んで、僕の代わりにしてもらっていました)

 ところが、どうも他の医師の一部や薬剤師の多くがこのことへの取り組みが不十分で、「うがい」指導ばかりを一所懸命にするので、患者さんの多くは「うがい」のことだけを気にかけて、吸入の仕方がかなり下手か全然ダメ(喘息は少ししか良くならないか全然良くならない)というケースがかなり多いのです。これは、他の医療機関から転医してこられた患者さんにしばしば見られているのです。本末転倒の典型だと僕は思っています。



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