2020年6月16日火曜日

コロナPCR検査を集団対策に用いる不都合さを示すための計算値

 このブログの「ウイルス診断キットについての雑感集 ①」において、臨床検査の感度と特異度という信頼度についての説明をしています。今年3月8日に公開したものです。
 この内容は、2月26日のプロポ先生のユーチューブ(医師解説: 全員にコロナウイルス検査をしても意味が無い理由: https://www.youtube.com/watch?v=cmI_6UGHXRI&t=173s)という記事を読んで、それを補足してさらに解りやすくしようと意図したものでした。ただ、この説明の出発点であるプロポ先生の資料は、通常の疾患のマーカー検査が想定されていると思われ、これをそのまま「感染の有無の検査」の説明に適用~内挿する場合に僅かな問題があることに気付きました。つまり、この時の検査の精度である「感度」(真陽性と偽陰性のこと)と「特異度」(真陰性と偽陽性のこと)がそれぞれ、90%と80%ということでした。この数値は、通常の疾患に対するマーカー検査としては、際立って精度の高いものだと僕も判断しています。しかし、今回の「感染の有無」というテーマにおいては、実態と多少の差があるということです。
 すなわち、従来のインフルエンザ(インフル)において広く用いられているウイルス抗原検索のものであっても、新型コロナ(コロナ)において用いられているウイルス遺伝子検索のものであっても、感度はもう少し不良である一方で、特異度はもう少し優秀なものであるらしいからです。この検査の精度の差によって、得られる計算値に大きい差が出てしまうことに自分の計算の際に気付きました。
 5月7日にこのブログで公開した「新型コロナから見えたもの:インフルエンザの治療っていい加減過ぎることに気付いた」に示したごとく、「インフルエンザ迅速検査の感度は50~70%、特異度は90%以上」ということですし、現在コロナに用いられていたり、今後開発されてくるはずの検査においても似たり寄ったりのことのようです。
 つまり、大凡のところの感度を75%、特異度を95%という程度での計算値を示すことがより現実に近いものであって、この条件での計算結果によってこの検査を集団に適用することの問題点が明らかになったと思います。
 プロボ先生のたたき台の条件においては、特異度の精度が相対的に低いので、偽陽性がとんでもなく大きくなっています。しかし、こういう場合もありうるということです。

  以下の表で、コロナPCR検査の実態に近い条件としての計算結果を示しました。つまり、検査の感度は75%で特異度は95%という設定です。ただ、ここでは集団の仮定陽性率として、1%と10%の2つの場合を示しましたが、他の場合でも同じように計算して結果を出せば状況がよく判ると思われます。
(表1) 

 この表からいろんな結果を知ることが出来ます。例えば、1千万人の集団にこの検査をしたとします。仮定陽性率が1%の場合では、2万5千人の偽陰性と49万5千人の偽陽性が出てしまい、仮定陽性率が10%の場合では、25万人の偽陰性と45万人の偽陽性が出てしまいます。
 この偽陰性と偽陽性の数を少ないと受け取るか多過ぎると受け取るかは、このデーターを以て医療現場や行政などが公衆衛生的に介入する選択するかどうかによって大きくかわることになると思います。このことに関する議論は次のブログで述べることにします。

 ただ、この号において予め述べておきたいことがあります。こういう臨床検査の個々の結果は(偽陽性や偽陰性が含まれるという前提で)元来は被験者の治療方針を決めるための参考資料です。これをその個人以外の集団に対しての対応に用いる根拠は a priori には証明はされていないと思います。
 その根拠が生まれてくる場合の例としては、臨床研究パターンにおける「後ろ向き研究」に相当ないし近似するデーターが偶然か意図的にか得られた場合にありうるのではないかと思います。つまり、今シーズンで得られた知見は次のシーズンに役立つことがあるかもしれないと思うべきだと思います。そのための検査なら予算があれば積極的にすることは悪くはないでしょう。
 何故なら、徹底的に感染を避けることを第一優先にすべきではないことは判ったはずだからです(あらゆる面での感染を厳密に阻止するという方針は、社会的な副作用があまりにも大き過ぎるという因子を無視できないからです)。関連死亡者や重症症例をなるだけ増やさないことだけが目標であるべきだからです。この感染症の死亡率が10%などという恐ろしい場合なら話は別ですが、少なくとも日本においては、インフルと比べられる程度のものであることは判ったはずです。
 最終的に関連死亡者数や重症者数の推移を規定する因子がなんであるかについては、今シーズンの最中においては実際上も学問的にもまだ明確になったわけではありません。当面は、従来のインフルにおける感染防止のマニュアルの程度が正解であるとしておくべきでしょう。こういう一般状況の中では、この検査におけるこの偽陰性や偽陽性の存在が大きい不都合になることがわかると思います。コミュニティにおける多数の無関係者(bystander)に根拠の乏しくて副作用の大きい強制を強いることになるリスク(というより現実)を人為的的に作ってしまうべきではないと思います。


 参考までに、同じような表を載せておきます。感度をかなり優秀な90%ということで固定して、特異度を90、99、99.9%と非常に優秀な場合を含む3条件で計算しておいたものです。最初はこのデーターを示そうと思っていましたが、その後、感染症に対する検査の条件と多少違うことに気付いて採用しないようにしたものです。このかなり優秀な検査結果であっても、人口集団の生活への介入の材料に使うとすれば、この程度の偽陰性や偽陽性の実数の程度でも大きい不都合になってくることになると私は思います。その議論も次のブログでする予定です。
(表2)




  これらの計算値を得るために用いた簡単なフォームを参考までに載せておきます。
(表3)





 

0 件のコメント:

コメントを投稿